【大学特集】
「社会と共にある大学」を

東北大学

東北大学前総長の大野英男氏は、磁性半導体の第一人者でもある。大野氏は「社会に貢献することと、自分の人生を充実させていくことを両立してほしい」と語る。

01

「変革と挑戦」

東北大学には三つの理念があります。一つ目は「研究第一」です。初代総長、澤柳政太郎が「研究に於(お)いては (世界の)何(いず)れの大学にも退けを取らざる覚悟」であると述べたことに端を発します。卓越した研究を行っているこ とが、東北大学に対する、教育を含めた社会からの信頼の基盤です。

二つ目は「門戸開放」。1913年に日本で初めて女子学生を受け入れました。1927年には海外出身者として韓国の梨花女子専門学校出身の学生が入学するなど、開学以来「門戸開放」の先駆者となっています。現在も、 ダイバーシティー・エクイティー&インクルージョン(DEI=多様性・公正性・包摂性)を大切にしています。

三つ目は「実学尊重」です。世界最先端の研究成果を社会や人々の生活に役立てる、新たな社会価値の創 造です。幾多のイノベーションに寄与するとともに、東日本大震災からの復興の経験と知見を生かし、災 害科学を通じた地域の再生と、国際的な社会のレジリエンス向上に寄与しています。

教育においては、国際性を重視しています。例えば、国際共修科目等を通じて留学生と日本人学生が交流し、 グローバルな意識を醸成しています。これらが評価され、「THE 日本大学ランキング」で4年連続1位を獲得しています。「変革と挑戦」を念頭に、研究大学としての使命を果たすため、絶え間ない変化 に対応し、国際性を高めながら、経営を含むさまざまな領域で積極的な変革を進めています。

また、大学ファンドの対象校となる国際卓越研究大学の認定候補に選ばれました。そこでは「 Impact(学術的・社会的インパクト)」「Talent(人材)」「Change(変革と挑戦)」を掲げました。 「Impact」では、基礎研究や応用研究を通して得られる卓越した研究成果などに代表される学術的側面 に加え、科学技術のプラットフォームとして社会と共創することや、東日本大震災の経験を通じ、災害 科学を国際的に広めるといった社会的側面を挙げています。

 「Talent」では、研究者や学生、また その環境を整える職員を含め、大学にいる人たちが能力を最大限に発揮できる大学となることを表明し ました。そして「Change」では、グローバル社会をリードする大学として国際性を徹底的に極めること を目指します。研究大学として一流になるためには国際性は絶対に欠かせないからです。またチェンジ には、掲げた目標を実現するために大学が自ら変わっていくという意志も含んでいます。世界の急速な 変化に対応する変革の先頭に立つという意味でも多くの方に注目をいただいているのだと思います。

02

自分の人生を豊かに

私が大学教員の道を選んだきっかけは、学生諸君やスタッフと協力しながら研究を進めることに意義を感じた からでした。学生時代にすばらしい指導教官に巡り会ったのが、この道を選ぶ決め手となりました。特に、奈良 国立大学機構理事長である榊裕之先生や、留学先のコーネル大学での指導教官であるイーストマン先生の存在が私の研究への情熱を育みました。

駆け出しの研究者だった時代は、限られた予算と時間の中で研究装置や実験室を自ら作り上げ、学生や職員 と協力して研究を進めていました。この経験がその後の研究を進める基盤をつくったと言えます。 研究は目的を追求するタイプと知的好奇心にドライブされるものに大別されます。多くの研究はその 中間に位置しますが、どの場合にも出そうとしている研究成果の研究分野での価値と社会に対する価値 を常に考えることが重要だと感じています。また世界中の優れた研究者が連携して研究を進めるスタイ ルが主流になっています。グローバルな舞台で協力と連携を通じて研究を進める、これが多くの場合これ からの研究に重要です。

社会に出てからは、世界や社会のあり方についての視点を深め、社会に貢献することと自分の人生を充実させていくことを両立してください。東北大学出身者は、「社会と共にある大学」で学んだ一員と して、自然にこれができると信じています。

東北大学総長特別顧問

大野英男

1954年生まれ。 1982年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1994年東北大学工学部教授、1995年東北大学電気通信研究所教授。第22代東北大学総長。2024年4月より東北大学総長特別顧問。専門は半導体物理・半導体工学、スピントロニクス。

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/