建物法令点検IT化
消防業界の効率化へ

「自分が活躍できるフィールドで戦いたい」という思いで、大学在学中の19歳のときに起業した都築氏。友人と飲食店を立ち上げ、数年が経ったころに東日本大震災が起きた。そのときのボランティア活動が、都築氏の人生に大きな影響を与えたという。

「現地では津波の被害だけでなく、火災など二次災害が起きている場所も多くありました。地震を無くすことはできないけれど、災害が起きたときに被害を最小限にすることはできるのではないか。そういった思いから防災事業に興味を持つようになりました」

まずは原発の問題から自然エネルギーの普及を目標に、太陽光発電所の販売会社を設立。その後、ビルマネジメントの法令点検に社会的意義を感じ、自社で点検や工事を請け負う消防設備点検の会社を立ち上げた。だが、参入した消防業界は、昔ながらのアナログさが残る旧態依然のレガシー業界だった。

「いわゆるテクノロジーが活用されていなかったんですね。ITの力を使えば、業界自体を変えられるのではないか。それが、当社を立ち上げたきっかけでした」

始まりは、自社の作業効率を上げるためのアプリ制作。実際に作業する職人の声を参考に制作を続けた結果、自社で使うだけでなく業界全体に広めた方が業界のアップデートに繋がるのではないか。そう考えを転換し、プラットフォーム事業に目を向けた。現在は、建物オーナーと点検業者を繋げるプラットフォームサービスを軸に、点検の依頼、管理、コストの最適化が叶う建物管理者用のWEBツール『スマテンBASE』と、点検者向けのアプリ『スマテンUP』を提供している。

「今までのアナログなやり方と比べて、点検や業務コストを大幅に削減できることはもちろんですが、細かい部分だと点検日の日程調整や報告書の提出など、膨大な事務処理に対してもスピーディーな対応が可能になりました。建物オーナーと点検業者、それぞれに寄り添った形で進められるサービスが、我々の強みでもあると考えています」

ニッチな業界ではあるが、事業を営む建物は全てが何らかの法令点検の対象であり、消防点検だけでも市場としては5000億規模。だが、法令で定められているにも関わらず、消防点検の実施率は約50％と低く、その実施率の向上も同社のミッションだと都築氏は語る。

「スポットライトが当たるような華やかな業界ではないですし、長い歴史があっても、今まで注目されていなかった業界。まずは、消防点検という仕事があるんだということを、世の中に知らしめることも大切だと考えています。災害が起きたときに命が守られる体制が整っているのか、きっちりと点検が行われているのか、というのはかなり重要なことですから。防災、減災のために今やれることを全力でやっておく。点検は人命を守ることに繋がるんだという認知を、もっと広めていきたいと思っています」

三方良しの経営理念のもと、業界全体の仕組みの改善にも努めている都築氏。同社のビジョンは「古い商慣習の残るレガシー業界に対して、ITの力でイノベーションを起こす」こと。

「ITを駆使したプラットフォームを提供することは、若い世代の参入にも繋がるはず。また、なるべく早く我々が上場し、社会的に認められることも目標です。発信できるポジショニングを取っていくことを目指しています」

これまで複数の会社で取締役を歴任してきた都築氏だが、同社を設立するまで「どれも一生のビジネスになるとは思えなかった」という。
「今、当社で向き合っている防災事業は自分にとって唯一無二なもの。原体験である東日本大震災の復興支援を通して感じた思いを広く伝えていくというのは、ある種、自分の使命になっているのではないかと思っています」

強い使命感のもと、アナログの商慣習が残る消防業界に変革を起こそうと注力している都築氏。ITの力で、その思いを着々と実現していっている。