夜間診療で地域守る
医療提供が存在意義

小児科・内科の診療を行うクリニックでは、2年前から夜間診療をスタートした。杉田亮院長は「三田市は兵庫県の山沿いにあり、小児の救急医療、夜間・休日の医療体制が乏しい地域です。以前は休日や土日・祝日に子供を病院に連れていきたいとなると、海沿いの神戸に降りていくか、東側の伊丹市に行くしかありませんでした」と話す。自身が、三田市や三木市、小野市などから患者を受け入れる神戸市の休日・夜間診療所で勤めていた経験があり、「患者と家族が夜中に高速を飛ばして30～40分かけて来院する状況に、ここまで来ないと夜間診療が受けられないのかと驚きました」と地域の休日・夜間診療体制に危機感を抱いた。

三田市でクリニックを開いた杉田院長は、地域に貢献するべく、かねてから構想していた夜間診療をスタートした。夜間に診療しているということが周知されておらず、最初の半年間は誰も来院しないという夜が続いたという。「夜も診てもらえるらしい」と徐々に訪れる人が増え、「夜間に開院する意義はある」と確信を持ち始めた頃、コロナ禍で感染者が増え、夜間の2時間で十何人もの診察をする毎日が続いた。気が付けば、毎日朝から深夜まで地域の人が訪れるクリニックとなっていた。

夜間診療は、特に子供を持つ働く世代から好評だという。従来だと、仕事から帰ってきて体調を崩している子供に気が付き、病院が開く朝まで不安なまま夜を越さないといけなかった。それが夜間診療という選択肢があることで、いち早く子供を診てもらうことが可能となったのだ。さらに、コロナワクチン、インフルエンザ予防接種を平日夜間に家族皆で受けられるようにし、多くの人が接種を受けた。

「クリニックではもちろん大人も診療します。昨夜は午前0時前に今向かっているという電話があり、来院を待っていました」という杉田院長は翌朝午前8時から診療をしている。「遠くから来てもらっているのに、間に合わないから閉めますということは絶対しませんし、待っています」と語る。

杉田院長は、いつも一緒だった幼なじみが、生まれつきの心臓病のため、高校生のときに亡くなったことから、医師になろうと決意。研修医時代は内科や救急を学び、その後は小児を主とした心臓血管外科に従事して研さんを積み、術後の患者に付き切りで治療する日々を送った。小児科の医師として勤務していた頃、自身のクリニックの後継者を探している羽場敏文・前院長と出会い、地域で必要不可欠な存在であるクリニックの灯を絶やさないために2017年、クリニックを継承して院長に就任し、体制を整えた2020年から、夜間診療をスタートした。

大切にしているのは、目の前の患者が、自分の子供だと思って治療することだという。「自分の子供だったら、この症状に薬は不要だと思ったら出しません。薬をもらわないと不安になる両親もいますが、本当にその子の事を思ったときに必要なことをしてあげようという信念を持ち続けてきました」という。

また、LINEを活用して24時間365日いつでも相談を受け付けている。「もし家族に医者がいたら、何でも聞けて安心するでしょう？そのように、相談してもらえれば何らかの答えを出します」という。診療室の壁一面に、子供が持ってきた絵や手紙、お菓子の袋を張っている。「病院に来るときに僕のことを思い出してくれて、『何かあいつに持っていってやろうかな』と、手紙を書いてくれたり、お菓子をくれたりする」といつもこれを見て励みにしている。。子供だけでなく、「夜も働いて大変ですね」と、ご飯焼き鳥をを差し入れてくれる人もいる。「その気持ちがすごくうれしいです」と笑顔を見せる。

「働き方改革」が叫ばれる中、杉田院長は患者がより医療にアクセスしやすいよう、医師としての出番をもっと増やす”「逆」働き方改革”を進めている。「今後は診療時間をより拡大して、より地域の方に便利に利用してもらいたい。医師として『先生』と呼ばれる立場ですから、その分頑張らないと。患者に求められていることが医師の存在意義だと思っていますので、頼りにしてくれる患者がいる限り、全力で医師としての責務を全うしていきます」と力を込める。杉田院長はこれからも地域のために走り続ける。