【大学特集】
愛を持って、
人と社会をつなげる

白百合女子大学

東京都調布市に位置する白百合女子大学。全国に広がる白百合学園の姉妹校の一つである。髙山貞美学長は「愛を持って人と人、人と社会をつなげることができる社会人になって」と呼びかける。

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予測困難な時代に生かせる人間力

本学の特色である「知性」と「感性」との調和の取れた女性の育成のために、建学以来カトリック精神に基づいた、一人一人の個性を尊重する少人数教育を大切に実践しています。

 卒業生の就職先の人事担当者に、毎年白百合生が持っている能力を調査したところ、「対人受容力」や「柔軟性」、「共感力」を挙げる人が多く、「さまざまな年代の関係者に対し、表面だけでなく その人の本質を認めてコミュニケーションできる能力がある 」といううれしいコメントもありました。

 これらの力は、キャンパスや社会での人との4年間の関わりという実体験の中から生まれるもの。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という四つの単語の頭文字を取った言葉で、目まぐるしく変転する予測困難な状況を意味するVUCA(ブ―カ)の時代に、どんな環境でも生かすことができる大切な人間力と言えるでしょう。

こうした学びを引き出すことができるのは、教職員と学生の距離の近さによるもので、アドバイザー制がしっかり根付いているからでしょう。

また、新宿や渋谷からそう遠くない立地でありながら、緑豊かな恵まれた環境で学ぶことができます。正門から数歩入るだけで、まるで別世界が広がります。よく見ると、陽の光が下草にも届くように樹木や草花のよく手入れされているんです。たくさんの樹木や草花、小鳥たちや昆虫がそれぞれ陽の光を浴びて、生き生きと成長していく。動植物の多様な命があふれる環境で、知性を深め、感性を磨くことは、都会においては得難い経験ではないでしょうか。

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人生の基軸を身につけ、チャレンジを

私は聖心布教会という男子修道会に属しており、名古屋でオーストラリア人の神父やブラザーたちに養成され、南山大学で神学の勉強をし、30歳でカトリック司祭になりました。30、40代は教会や関連センターで働きながら、2度のローマ留学を経験しました。ローマでの生活でよく見聞きした言葉は、 fuori servizio(故障中) と sciopero(ストライキ) でした。旧市街地区では交通量が多く、また運転手のマナーもよくないので、信号機なしの横断歩道を渡るのも最初のころは命懸けでした。

これまでの人生を振り返ってみると、自分で選び取ったというよりも、「招かれて、応えた」と言ったほうが正しいのかもしれません。「神の招きに応える」というと聞こえはいいのですが、実際にはこれで本当に良かったのか、役職や立場が上になるほど孤独の道を歩まざるをえなくなり、失敗の連続、自問自答の繰り返しです。

少子化やグローバル化の進展など、高等教育を取り巻く環境は大きく変わっています。時代の流れ、社会の変化の中で、これまでの伝統を生かしつつ、学修者本位の教育の実現に向けて真摯(しんし)に取り組んでいきたいと思います。

女子大学は、異性の目を気にせずに自由に伸び伸びといろんなことにチャレンジできる、安全・安心な教育環境です。一人一人が自分の可能性に気づいて、小さな成功体験を積み重ねながら自己肯定感を高めていってほしい。また、人生で何が糧となり、どこに宝が隠されているかは、後になって分かるものです。その意味でも、回り道や道草も経験してほしいですね。

初代学長スール三島初江先生は、当時の学生たちに対して、「本学で修得した知識を、愛に変えて、社会に貢献してほしい」と述べています。4年間の経験や学びを踏まえて、ともすれば断絶しがちな今日の社会の中で、それぞれのフィールドで、愛を持って人と人をつなげる、人と社会をつなげることができる、そんな社会人になってほしいと考えています。

 諸宗教対話の分野でお世話になった禅宗の僧侶が、次のような例え話をしていたのを時々思い出します。

 「大きな川に2艘(そう)の船が浮かんでいました。1艘には錨があり、もう1艘には錨がありませんでした。ある日、雨が降り、多少水かさが増えても、2艘ともほとんど同じ位置にありました。ところが、雨が降り続き、風も吹いてきて、水かさもずいぶん増えました。翌朝、川に行ってみると、錨のある船はそのまま元の場所にありましたが、錨のない船はどこへ行ったのか、その姿は見えませんでした」

この錨に象徴されるような人生の基軸となるもの、すなわち、自分の哲学、教養、信条を若いうちにしっかり身につけて、人生100年と言われる長い旅路の中で、いろいろなことにチャレンジしていってほしいです。

白百合女子大学学長

髙山貞美

1955年福井県に生まれる。2000年に教皇庁立グレゴリアン大学大学院神学博士課程を修了。上智大学神学部教授を経て、2020年上智大学名誉教授。同年、白百合女子大学学長に就任。

https://www.shirayuri.ac.jp/