持続可能な仕組みで
地域に根ざした医療

三浦メディカルクリニック

超高齢化社会の進行で、地域医療の重要性が高まる中、「三浦メディカルクリニック」(神奈川県三浦市)の井上哲兵院長は、「個人経営クリニックでも、持続可能な医療提供の仕組みを作る必要がある」と語る。医療法人社団南州会理事長として、医療過疎地域の課題解消に注力する井上院長に聞いた。

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高度な医療を地域で完結

井上院長は、祖母が横須賀市の保健センターの医師で、父が三浦市で歯科医院を経営していた影響で、医学部進学前から地域に根ざした医療従事者として開業医を目指していたという。「小さいころから慣れ親しんだ三浦市に恩返ししたいという思いもあり、どういった形で地域に貢献できるか。それを考えたとき、市内で医療を完結させられるような病院を作りたいと思ったのが、開院のきっかけになりました」と振り返る。

自然豊かな三浦市だが、三方が海に囲まれていることもあり、都会の総合病院へのアクセス面ではやや不便で、高齢者などがもっと気軽に通院できるクリニックにしたいと感じた。「市内にも大きな病院はありますが、超専門的な疾患を診られる病院となると少し足を伸ばす必要がある。私は呼吸器内科が専門ですが、三浦市には他に呼吸器内科専門医がいないのです。ぜんそくの発作が出ても横須賀や横浜の病院に行くことになり、高齢者には非常につらい。当院で大学病院並みの呼吸器診療が可能になれば、市内で検査・治療が完結できるはずだと考えました」と開院への思いを語る。

CT装置や呼吸機能検査機器・院内血液検査機器(血算・生化・尿検査)など大学病院並みの検査機器を揃えている同院には、市外や県外からの来院も増えている。「呼吸器診療をするうえでのCT検査というのは、診療の質の底上げにもつながります。検査するのにいちいち『横須賀や横浜に行ってください』と言われると、患者の足が遠のいてしまう。歩いて行ける距離に大学病院並みの設備を整え、より高度で専門的な医療を受けられる。それが一番の強み」と胸を張る。

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医療過疎地域の医療体制を確保

三浦で開業するという目的を達成し、井上院長は次の目標として「持続可能な医療提供の仕組み作り」に注力している。「私たちが倒れたとき、地域の患者さんを誰が支えるのか。個人経営のクリニックは、今まで世襲が一般的でしたが、今は医者の子供が医者になるという時代ではない。小さな法人でも持続可能な運営を考える時代に来ているのではないでしょうか」と訴える。

年齢のために自分のパフォーマンスが落ちてから計画するのでは遅きに失すると考えた井上院長は、都市から医療過疎地域へ医師を派遣するシステムを自前で構築するプランを考案した。「大学からの医師派遣もありますが、正直マンパワーは不足しています。そこで、人材が豊富な都市に分院を作り、そこから医師や看護師を派遣すればいいのでは、と考えました。柔軟な勤務体制と併せ、週1回程度、医療過疎地域での勤務をお願いする。医療過疎地域の医療体制を確保できるのと同時に、現状、子育てなどでフレキシブルな雇用体制が取れずに辞めてしまう女性の医師や看護師も多く、院内保育・院内学童を併設すれば、活躍の場を用意できると考えています。今、日本有数のターミナル駅直結で徒歩1分の場所に分院開設を予定しています。まずは都会と三浦市をダイレクトに結ぶ医療システムを構築することを目標としていますが、ゆくゆくは三浦市以外の医療過疎地のクリニックからの要請にも答えるようにしていきたい」と語る。

持続可能な医療提供システムの構築に加え、これからの若い世代に向け、デジタルを生かした診療の効率化にも力を入れている。「クリニックに来るボリュームゾーンは60~65歳以上で、今はアナログの方が便利かもしれませんが、10年、20年後にはデジタル世代が多く来院するようになる。その世代と感覚のギャップを理解しておくことが大切だと思っています。デジタルでの効率化を求める新しいニーズにもしっかりと応えていかないと、将来的生き残れないと考えています」という。

デジタル世代に対しては、「病院に対しての印象、特にマイナスイメージを払しょくしたい」といい、「スマホに症状と地域名を入れてヒットした中から、良さそうな病院を受診することが多い。まずは良さそうな病院だなと思ってもらえる要素を作ることが大事。病院としてPX(ペイシェント・エクスペリエンス=患者体験)をデザインする事が大事だと考えています。例えば、待ち時間が多いから病院に行きたくないという方のために、待っていても苦ではない空間づくりをするなど、患者満足度を上げる。そういった部分まで考慮した病院を作っていきたい」と語る。

「いつまでも、地域に根ざした患者の一番近くにいる医療従事者でありたい」という医師を目指した最初の志が、今も原動力だという井上院長が目指す持続可能な医療提供の仕組み。モデルケースとなって全国へ広がっていくことだろう。

三浦メディカルクリニック院長

井上哲兵

1984年、神奈川県出身。2003年私立浅野高校を卒業。2009年聖マリアンナ医科大学医学部を卒業。同大学病院呼吸器内科助教、国立病院機構静岡医療センター呼吸器内科医長などを経て、2019年、神奈川県三浦市に「三浦メディカルクリニック」を開院。聖マリアンナ医科大学呼吸器内科非常勤講師を兼任。

https://miura-medical.clinic/