高齢化社会の医療に
地域の多職種連携を

ますずがわ神経内科クリニック

神経難病などの外来診療を行いながら、訪問医療も手がけるため、地域の医師、薬剤師、看護師、理学療法士、ケアマネージャー、介護士ら多職種と連携を行っている「ますずがわ神経内科クリニック」。診断後も患者と家族に寄り添い、サポートを行っている真鈴川聡院長に、高齢化社会での地域医療のあり方を聞いた。

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情報共有でチームのレベルアップ

真鈴川院長は、大学病院や総合病院で経験を積む中で、診断はできても、その後のサポートができないことに歯がゆさを感じていた。「神経内科の疾患は完治することが難しく、進行していくことも少なくありません。そのため、診断後も長く病気と付き合っていく必要があり、患者も家族も日常生活の中で大変な思いをしています」という。

 そんな状況を目の当たりにした真鈴川院長は「患者と家族がより良い生活をするサポートがしたい」と開業を決意。現在クリニックでは、パーキンソン病や脊髄小脳変性症などの神経難病や認知症、てんかん、多発性硬化症などの外来診療を中心に、介護施設での診療や訪問医療にも精力的に取り組んでいる。また、漢方薬にも精通し、「冷え性や顔がほてる、便秘など漢方薬の方が効果的なこともあるので、西洋医学と併せて使っています」と語る。

「外来診療や訪問医療では、他の医療機関だけではなく、薬剤師や看護師、理学療法士、ケアマネージャー、介護士らと連携しながら、日々サポートしています。神経難病は、認知機能や身体機能、自律神経機能の低下によって、日常生活機能が低下し、多職種からのサポートが必要なため、セキュリティーに配慮した情報交換ツールを使って患者の情報を共有しています」と医療と看護と介護の連携を図り、双方向の情報交換により地域のレベルアップにつなげている。真鈴川院長は「人材の育成、すなわち地域全体の医療と看護と介護を育てていくことにもなる」と情報共有の重要性を語る。

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医療人材育成に多職種連携教育

「クリニックでは、最初に問診票を書いてもらいますが、それだけでは不十分ですので、受付スタッフや看護師が患者や家族の様子を見たり、コミュニケーションを取ったりすることで、背景を把握し、より良い治療につなげられる」と、真鈴川院長はクリニック内でのコミュニケーションも大事にしている。また、「家族に日常生活で気になったことや問題点などをノートに書いてもらい、診察の際に確認しています。日常の患者の様子を把握し、患者と家族それぞれにアドバイスしています」と寄り添った診療を心がける。特に認知症やパーキンソン病の患者には、周囲の支援がどれぐらい受けられるかを確認するため、家族構成や経済状況なども確認するという。

 「アルツハイマー型認知症は、数十年前のことは鮮明に覚えているのに5分前のことは忘れてしまいます。何度も同じことを言うために、家族がいら立ったり、溝ができてしまったりすることもあるので、“病気の症状“であることを理解してもらうよう努めています」と家族へのフォローも大切にしている。また、認知症で買い物が上手くできないなど生活上の困難をサポートしてもらうため、行政との連携も行っている。

少子高齢化が進む中、真鈴川院長は「地域医療に根ざした多職種連携が必要不可欠」といい、介護保険制度ができた2000年頃から、地域医療に根ざした「多職種連携教育(IPE)」に取り組んでいる。「医療従事者育成には、医療だけでなく、その人らしい生活を支援する視点を取り入れた教育が重要。このようなスタイルが多くの地域で広がっていくことが、安心して暮らせることにつながる」と力を込める。

真鈴川院長自身は、クリニックの規模を大きくすることは考えておらず、「地域の医療と看護と介護の質を上げることを中心に、当院しかできない神経難病のサポートを続けていきたい」と思いを語る。

ますずがわ神経内科クリニック院長

真鈴川 聡

1965年、三重県生まれ。三重大学医学部卒業後、16年間、大学病院や総合病院に勤務。病院医療の限界を感じ、患者が病気と共に歩むことをサポートするために開業に至る。医療・看護・介護・行政の各職種と連携し、神経難病などの外来診療を中心に、訪問医療も行っている。多職種への教育、指導に尽力するとともに、市民講座も積極的に行い、多くの人に病気や介護の理解を深める活動を行っている。

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