どんな症状でも診る
総合診療医を全国に

菊池院長は、元々総合病院で外科の手術や救急の診療に携わっていたが、手遅れになってから来院する患者も多く、「地域のクリニックでしっかりと診察できていれば、病気を防げるのではないか」という思いを持つようになった。

菊池院長は「日本のクリニックのほとんどは専門で分かれているため、患者は病気が分かってクリニックに行くのではなく、症状で『どこの科目にかかったらいいんだろう』と悩むこととなり、結果的に病院に来るタイミングが遅くなってしまう。そういった点をクリアにしたいと思い、どんな症状でも診るというスタンスのクリニックを作ろうと考えました」と、2017年にきくち総合診療クリニックを開院した。
症状を問わずに、地域の人が気兼ねなく相談できるかかりつけ医、いわゆる“総合診療”を実践している。土日祝日も診察を受け付けているほか、患者ファーストでのホスピタリティを充実させている。「かかりつけ医として開業するということは、門を広く開けて『まずは来てください』というクリニックであることだと考えています」という。

開院して5年、菊池院長は「予想通りでもありますが、患者にとって総合診療クリニックは意味があるものでした。結果的に、とても多くの患者に来院してもらい、自分のスタンスは間違っていなかったんだなと実感しています」と振り返る。「整形外科はあの病院、心臓はまた別の病院といったように複数のクリニックに通う方が多いのに、いざちょっと体調が悪い、熱が出たといったとき、どの病院に行ったらいいのか分からない。総合診療のクリニックがあれば、そこはクリアになります。何でも相談できて、自分の体の状態を把握している総合診療のかかりつけ医の必要性を改めて強く感じています」と語る。

かかりつけ医が医療の“入口”として診察を行い、専門的な治療が必要な場合には高次機能病院へと紹介する。総合診療のかか、りつけ医として、地域医療に携わる菊池院長は「その医療の入り口がうまく機能していない。そういった地域が日本にはまだたくさんあるのが実情」と指摘する。「総合診療を掲げるドクターが町に存在していないので、大半がかかりつけ医を持つことができないことが、コロナ禍で浮き彫りにもなりました。当院のような総合診療のクリニックが増えれば、日本の医療も安定しますし、患者も安心すると思い、総合診療のスタンスをもっと広めていきたい」という。

その思いから、菊池院長は昨年12月に『「総合診療かかりつけ医」が患者を救う』を出版した。「自分が総合診療クリニックで患者を診るだけで終わるのではなく、自分の考えを若い医師に、大学病院に残るのではなく、30代から開業してほしいという思いを知ってもらいたい。もちろん早くから開業する医師もいますが、総合診療、かかりつけ医というスタンスのクリニックは少ない」と語る。

菊池院長は、若手医師が総合診療のドクターとして育つ環境がないのも問題だといい、「日本医師会が掲げる、かかりつけ医の定義は『身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師』とされています。日本は専門医を作るカリキュラムが基本なので、別途かかりつけ医を目指したカリキュラムがあれば、もう少し総合診療にも目を向けてもらえるのではないかと思っています。若い医師に総合診療クリニックという存在を知ってもらいたいと考えています」と話す。

また、少子高齢化が進む中、地域医療の重要性が増し、かかりつけ医の存在がより大きくなってくるはずだと指摘する。「高齢になったときに自分の主治医はあの人だ、というものをしっかりと作っておかないといけないと思います。何かあってから診断してもらうのではなく、継続的に通うことが予防医療にもつながるはず。そういったかかりつけ医を“作れない”現状を解消するためにも、若い医師の力を借りたい。レベルの高い総合診療クリニックを作る仲間を増やしたい」と地域医療の底上げを目指し、自身のクリニックでも医師の数を増やすなど、地域開業医として地域医療に尽くそうとしている。菊池院長は、かかりつけ医としての使命を全うしながら、その思いを全国に広げていく。