手相と精神分析加え
東西を超えた医療を

医療法人 幾嶋医院

福岡県柳川市にある医療法人幾嶋医院の幾嶋泰郎院長は、漢方診療に精神分析や手相を取り入れることで、今までの西洋医学や東洋医学と違う視点で患者を診察。標準的医療で治らなかった患者の最後のとりでとして、病気に挑んでいる。

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五臓と手相による精神分析を漢方医療に応用

幾嶋院長が手相と出会ったのは大学病院勤務のころ、論文研究の傍ら、気分転換に読み始めた手相の本に興味を持ち、自分の分かる範囲で周囲の手相を見ていたところ、その的中率が評判になった。「他の大学病院に実験に行くと、『手相を見てほしい』というスタッフが廊下に並んでいた。当たると言われることが快感になってきて、もっと精度を上げたい、手相について詳しく知りたいと思うようになった。西洋手相から日本独自の手相学まで、集中的にいろいろな本で勉強していきました」と明かす。

その後、患者の脈を測ると同時に手相を見るようになり、父の診療所を継承して独立した1999年ごろから、本格的に中医学である漢方診療を始めるようになった。

幾嶋院長の治療は、漢方理論の「五臓」と手相による現代精神分析の「エゴグラム」を同一のものと考え、それによって漢方薬を処方する。「手相と言っていますが、掌紋医学は中医学の一つ。手のひらの上における臓器マッピング(肝=木、心=火、脾=土、肺=金、腎=水)が、五行に置き換えたときの手相上の丘(木星丘、土星丘、金星丘、火星平原、水星丘)と一致することから、患者の感情や気分によって起こる病気や症状は、患者の手相から精神分析を行うことが有効だと分かってきた」と説明する。

例えば、季節性のうつ症状の患者について、「10年くらい秋になると落ち込んで、うつ病に近い症状が出てくるという患者でしたが、寒いと症状が出やすいということでまずは漢方の理論から冷えを治すことを提案しました。手相を見ると非常に優しい性格で、他人の気持ちが分かりすぎてしまって、巻き込まれやすく、影響を受けやすいタイプだったので、自分と他人を切り離しましょうと伝えました。冷えを治しながら、そういった自分の潜在的な思考の癖を直そうと意識した」と語る。

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医療難民となった患者を救いたい

体に出る病気の症状は、精神的なものが原因のことも多い。幾嶋院長は「漢方は元々心身一如。手相によるエゴグラムを導入することによって、患者が抱えている問題に短時間で寄り添うことができる。例えばびっくりすることを『腰が抜ける』と言ったり、怖がりのことを『腰抜け』と言ったりしますが、実際に驚いたり怖がったりすると腰が痛くなるんです。単に慣用句的なものではなく、腰から下を担当するのは『腎』という臓器で、腰痛は80%が原因不明ですが、実はそういった感情に左右されている」と説く。

これまで漢方の五臓理論は難解で、それを自由自在に運用するには、漢方に対する深い理解と気付きが必要だったが、幾嶋院長は「漢方診療に手相による精神分析、エゴグラムを導入することで、西洋医学と東洋医学の双方が互いに気付かなかったことに対して、相補的に理解することが可能になると考えています」と強調する。

現在の医療は、診療科や疾患ごとのマニュアルやガイドラインに沿った治療が行われており、その標準化された治療により、日本全国どこに行ってもある程度同じ治療が受けられる。同じ病気でも個人によって全く違う治療法が効果を発揮することも多い。幾嶋院長は「だからこそ、患者個人に特化した非標準的な治療を施したい」と意気込む。「標準的な医療を受けて治らなかった人に、同じような医療を提供しても治癒しない。だったら、他の先生が絶対にやらないようなことをやる必要があるのではないかと。それが自分にとっては、手相でした。漢方の五臓理論と手相によるエゴグラム。それは、現代医学が目指すものとは逆方向かもしれませんが、難民化した患者を救う唯一の方法だと考えています」と熱く語った。

医療法人 幾嶋医院院長

幾嶋 泰郎

1955年、福岡県出身。1980年に川崎医科大学を卒業後、2年間外科で研修。福岡大学産婦人科、久留米大学産婦人科で研修後、1999年に父の診療所を継承。開業後に漢方薬を使い始め、著効する症例を経験した。福岡医師漢方研究会所属。自ら球脊髄性筋萎縮という難病となり、車椅子で診療を続けている。

https://www.ikushima.or.jp/