分野超えた研究開発
SDGsの世界に貢献

株式会社バイオケミカルイノベーション

暑さや寒さといった人の体感ファクターは、温度や湿度に加え空間に存在する水分の電位「空中電位」の存在が大きく影響する。バイオケミカルイノベーションの徳田美幸取締役最高技術責任者の発見が話題となっている。環境や健康をテーマに長年に渡り研究・開発を続けてきた徳田氏は「今後は『空中電位』をコントロールしようとする世界になる」と自信をのぞかせる。

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温度や湿度に次ぐ新たな体感ファクター

徳田氏は、ケミカル系や微生物関連を中心に数々の研究・開発を手がけてきた。アルコール・塩素系と同等の効果を発揮し、さらに持続性もある100%天然由来の除菌・抗菌剤や、食品の鮮度保持などに使われ、アンチエイジングやボディケアなど美容・健康分野での用途も期待される抗酸化セラミックスなど、企業への採用実績は多岐にわたる。

そんな徳田氏が今年5月、人の体感ファクターに空中電位が大きな影響を与えていることに着目した論文「Suitability of air moisture oxidation-reduction potential as an indicator of atmospheric pollution(邦題:空気中の汚染度の測定主旨と方法、掲載ジャーナル:Science of the Total Environment)」を発表した。徳田氏が空中電位に興味を持ったきっかけは25年ほど前、「人間の体温より気温の方が低いのに、なぜこんなに暑いんだろう」と考えたことだったという。徳田氏は、温度と湿度のほかにも体感に影響を与えるファクターがあると考え、「電位を下げる方法は知っていたので実践したところ、冷房が効いてないのに犬が動かないんです。普通だったら温度が低いところに移動していくはずなのに、全く動かない。これは解明しないと気持ち悪いなと感じたんです」と語る。

人間を始め植物や微生物など、電位は生き物全てが持っている物質。空中電位をそれぞれが快適だと思う電位に合わせれば過ごしやすくなるのではないか。人間の感覚に影響するものとして、常識だった温度や湿度。それに加わる第3のファクターとして電位に着目した徳田氏の研究は、環境分野の専門家からの期待も高い。「温度計や湿度計がエアコンや空気清浄機のなかで機能するように、今後はそこに電位計というものが加わっていくと考えています。必要な場面に応じて、それぞれに適度な電位調整を行うことで健康の維持はもちろん、院内感染の軽減やウイルス・ばい菌の増殖の抑制、生鮮食品の酸化を遅らせることも可能です。全ての業界が電位をコントロールする世界になれば、CO2の削減、省エネとフードロスにもつながります」と胸を張る。

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SDGsにもつながる研究テーマ「環境と健康」

空中電位の発見がこれまで手掛けた研究の集大成だという徳田氏は高校卒業後、大学ではなく理工系の専門学校に進学し、サラリーマンとしてケミカル系の会社に就職。入社後は「高校まで一緒だった同世代が大卒として入ってくるまでの2年間、彼らに負けないくらいの知識を付けよう」と決めて勉強に励んだ。「大学に行けなかったことで研究の成果を疑われるなどマイナスな影響もありましたが、民間企業に就職して仕事の現場でしか学べないこともたくさんありました。化学・生物・物理など専門が限定されなかったことで、逆に各種分野の隔たりを融合に変える開発の視点を持つことが可能になったんです」と振り返る。空中電位を始め、今手がけているものは全て当時の研究がベースになっている。各種専門分野を横断した独自の研究開発の仕方を若い世代に伝え、残していきたいという夢もある。

「自分にはポリシーが三つあります。あくまでも『環境と健康』にこだわった研究開発をすること。そして、必ず世の中に求められるニーズがあり、実用化できるものであること。過去に実績がなく、誰もやっていなかったことを研究すること」と語る徳田氏だが、それを体現するように「製品化しても、大手には敵わない。だったら、自分はアンテナを常に張り巡らせて誰もやっていないことをやろう」と、これまでの特許の出願・取得実績は200件を超える。「最初はやっぱり過去の実績がないから、と企業にも採用されることも少なく、大手に負けることが多かった。画期的な研究ほど、周囲の理解を得るためにいくつもの壁を乗り越えなければなりません。理論武装した上で、いかに研究成果を可視化し、具現化することができるか。新しい発見や技術の開発がゴールではないんです」と語る徳田氏。長い努力が実を結び、徐々に企業との取り組みが始動している。

昨今、世界中が取り組むSDGsへも自分の研究が役立つはずだと、徳田氏は自信をのぞかせる。食品衛生法で定められている微生物検査の判定を今までの48時間から3分間へと大幅に短縮する微生物測定器は、フードロスだけでなく、事前に微生物汚染が分かるため食品工場側のエネルギーが減り、CO2削減にもつながる。既に製品は完成間近であり、来年春の販売開始に向け準備が進められている。現在、大手企業が盛んに研究開発を行う「水素」についても、徳田氏は独自に研究を続けているという。今後ますます課題になっていくであろうエネルギーやCO2削減、廃棄物問題は、徳田氏がずっと向き合ってきた環境と健康という分野につながるものだ。

同社の設立で、研究に集中できる環境が整ったという徳田氏。長年積み重ねてきた実績を形にして、国内だけでなくグローバルに発信、製品化するのが今後の展望だ。

株式会社バイオケミカルイノベーション取締役最高技術責任者

徳田美幸

1960年、新潟県出身。日本工学院専門学校公害工学科を卒業後、水処理の専門企業に入社。開発部を立ち上げ取締役に就任。開発に特化した新会社を分社し独立した。その後地元、新潟県上越市で研究開発会社を設立。株式会社バイオケミカルイノベーションの取締役開発責任者としてさまざまな開発プロジェクトを推進中。

http://biochemical-i.com/