日本が誇る伝統技術
左官の周知を

株式会社あじま左官工芸

左官工事のなかでも日本の伝統建築や文化財に特化し、業績を伸ばしている株式会社あじま左官工芸。高い技術力を持つ職人を束ねる阿嶋一浩代表は、職人減少や後継者不足、適正価格での受注といった業界が持つ課題解決へも積極的に取り組んでいる。

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社寺仏閣や文化財を請け負う特殊左官

こてを使って建物の壁や床を塗り、仕上げていく左官職人。通常は、大きなビルなどをメインに扱う“野丁場”と住宅関係を請け負う“町場”、それぞれ職人が分かれることが多いというが、あじま左官工芸は阿嶋代表いわく「半野丁場」。社寺仏閣や文化財の仕事が全体の9割を占める特殊左官に特化し、そのジャンルでは業界でも一目置かれる存在だ。阿嶋代表は「祖父から父へと代替わりし、安い金額で請け負っていたようなんですね。私が継いだときは常に資金繰りに悩んでいた状態でした。ですが、腕のいい職人がそろっていたので、お寺さんから『漆喰(しっくい)を塗ってほしい』という依頼をいただくことがありました。当時はお寺さんからの支払いが一番早かった。文化財を守りたいという大層な思いがあったわけではなく、資金繰りの一手になりそうという不純な動機でした」と自嘲する。

他が手掛けない特殊左官に勝機を見出したが、そこからの道は平たんではなかった。今までの取引先とは全く違うところに営業をかけるため、阿嶋代表はトップ営業マンが主催する学校に通い、営業のイロハを学び、社寺建築の入札を請け負う設計事務所などへと積極的にセールスをかけていった。有力者の紹介もあり、だんだんと社寺建築でのシェアが広がっていく中で、「あじまさんにお願いしようか」という雰囲気が出てきたころ、阿嶋代表は宮内庁へも足を運んだ。「怖いもの知らずですよね。チラシみたいな会社資料を持って行ったら、『初めてのことだから上司を呼んできます』って、大ごとになっちゃって。でも、それがあったから『こんな人が見積もりを持ってきましたよ』という感じで、桜田門や坂下門などの修復を依頼してもらえました」と振り返る。

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業界の課題解決を目指す先進的な取り組み

また、社寺仏閣などに特化しての左官業務は、働き方改革にもつながっているという。同社は、日給制の多い左官業には珍しい月給制で、「昔から職人は雨が降ったら休みになってしまう業態でしたが、社寺建築には軒があり、雨が降っていても作業ができることが多い」という。大きな後押しとなったのは「重要文化財や国宝などに関わる仕事をしている」という自負からだった。「そういった仕事をしているのに、国の方針に背くわけにはいかない。お天道様の下、堂々と歩ける経営をする。それをいつも念頭に置いています」と力を込める。

職場環境を整え、確かな技術や豊富なノウハウを持つ左官職人を育てるだけでなく、こてを作る鍛冶職人へのサポートにも注力する。「以前、カリスマ左官職人から『左官だけでなく、鏝鍛冶も減少している』と聞き、調べたところ、どこも経営状況の悪化や跡継ぎ問題を抱えていた。いくら技術を極めても道具がなければ何もできないですから。組合から各職人に発注の前金制を依頼するなどの働きかけを行いました」と話す。同社では新規でこてを購入する際に使えるオリジナルのこてクーポンを発行するなど、業界の課題解決に取り組んでいる。

女性職人が活躍できる環境も整えるなど左官業界の活性化を目指し、阿嶋代表はさまざまなことに挑戦している。「先輩方が見たら『何をしているんだ?』と思われそう」と笑うが、今一番の課題は「セールス力と広報力ですね」と表情を引き締める。「今の子どもたちは『左官って何?』と思っている。左官や壁の材料となる漆喰、それを広く周知したい。NHK大河ドラマ『真田丸』の題字を書いた挾土(はさど)秀平さんのようなスターを作ることも大事です」と語る。

「技術は伝承」だという阿嶋代表。「社寺仏閣や文化財の左官は、先人たちの仕事を忠実に復元しなくてはいけない。そういう使命があると考えています。漆喰は脱炭素にも関係していることなので、SDGsへの意識が広がる中、業界的には追い風だといわれます。まずは日本ならではの技術があるということを知ってもらい、設計事務所に一人でも多く左官ファンを作って、そこからネットワークを広げたい」と話している。

株式会社あじま左官工芸代表取締役

阿嶋一浩

1962年、東京都出身。創業100年を超える左官業の老舗。社寺建築、文化財の左官を中心に展開し、高い評価を得ている。

https://ajimaart.co.jp/